夜のイベント会場の音響卓で、進行台本と選曲メモを見ながらBGMのリストを確認しているイベント制作ディレクター

イベントのBGM・音楽著作権|JASRAC手続きと配信時の注意

開演前に流すBGM、登壇者の出はけの曲、表彰の瞬間に鳴らすファンファーレ、オープニング映像に付けた音楽。選曲までは楽しく進むのに、入稿の直前になって「これ、著作権の手続きって要るんでしたっけ」と誰かが言い出す——その瞬間の、すっと血の気が引く感じ。多くのディレクターが一度は経験しているところです。

会場に聞けば「うちは包括契約があるので大丈夫です」と言われることもあれば、「主催者さんでお願いします」と返ってくることもある。配信も入るとさらに分からなくなる。音楽の権利まわりは、進行や見積と違って社内に詳しい人がいないことが多く、判断を任される割に情報が集めづらい分野です。

でも、押さえる筋道はそれほど多くありません。「誰の権利か」と「どう使うか」の2つで、必要な手続きはだいたい決まります。順番に整理していきましょう。

結論:イベントで音楽を使うときは、次の3つを順番に確認します。① 会場が手続きをしてくれるのか、自分(主催者)が申請するのかを、会場に文書で確認する——ここが最初の分かれ道で、口頭の「たぶん大丈夫」で進めるのがいちばん危ない。② 使う曲を早めに確定し、曲ごとに管理団体(JASRAC/NexTone など)を調べる——曲名・作詞作曲者・演奏時間のリストを作れば、以降の手続きはほぼこの表で進む。③ 「会場で流す」「配信する」「録画を残す」で手続きが別々に要ると考える——会場分の手続きだけでは、配信もアーカイブもカバーされません。まずは香盤に載っている曲を書き出すところから始めれば十分です。

音楽の権利は、誰かを困らせるためのルールではなく、曲を作った人に対価が届くための仕組みです。手続きは面倒に見えますが、やること自体はリスト作りと申請書の提出。段取りを組むのが仕事のあなたなら、いつもの手順に乗せられます。

本記事は一般的な実務の整理です。楽曲ごとの管理状況や手続きの要否、使用料の算定は、会場・管理事業者・権利者への確認で最終判断してください。

なぜ「会場に任せておけば大丈夫」と思ってしまうのか

現場でよく起きるのは、こんなすれ違いです。

会場の担当者に「BGMを流します」と伝えると、「当館はJASRACさんと契約していますので」と言われる。安心して進める。ところが本番の1週間前、配信を担当するベンダーから「配信する曲の権利処理はどうなっていますか」と聞かれて、初めて話が食い違っていたことに気づく。

これは、「会場の契約でカバーされる範囲」と「イベントで実際にやること」がずれているために起きます。施設が管理事業者と結んでいる契約は、館内で流す環境音楽など、施設側の利用を対象にしていることがあります。一方、主催者が催物として行う演奏や、ネット配信は、その範囲に入っていない場合がある。どちらが正しいという話ではなく、契約の中身によって違うのです。

だから確認の仕方も、「大丈夫ですか」ではなく、「今回のイベントの、この使い方について、手続きは会場側で行われますか。主催者側で申請が必要な部分はどこですか」と、使い方を具体的に添えて聞くのが確実です。メールで残しておけば、あとで確認し直す手間も減ります。

ここは、知らなかったから悪いという話ではありません。会場ごとに契約が違う以上、毎回確認するしかない性質のもの。確認を1本入れる段取りさえ持っておけば十分です。

手続きが要るかは「誰の権利か」で決まる

音楽まわりの話がややこしく感じるのは、ひとつの曲に、別々の権利が重なっているからです。実務では、次の2つを分けて考えると整理できます。

① 著作権(曲そのもの=メロディや歌詞の権利)

作詞家・作曲家・音楽出版社が持つ権利です。多くの曲は、著作権管理事業者であるJASRAC(日本音楽著作権協会)やNexToneに管理を委託しています。イベントで曲を演奏したり、CDや音源を会場で流したりするときは、この著作権の手続き(利用許諾)が関わります。

なお、著作権法では録音物を再生して聴かせることも「演奏」に含めて扱われます。「生演奏ではなく音源を流すだけだから関係ない」とはならない、という点は押さえておきましょう。

② 原盤権・レコード製作者の権利(その音源=レコーディングされた音の権利)

CDや配信音源など、録音された「その音」についての権利で、レコード会社などが持ちます。曲の著作権とは別物です。

ここが実務でいちばん間違えやすいところなのですが、会場で音源を流す(再生する)だけであれば、原盤側の許諾まで求められる場面は多くありません。一方、その音源を映像に付けて配信したり、記録動画として残して公開したりする場合は、複製にあたるため、レコード会社などへの別の許諾が必要になります。市販音源をオープニング映像のBGMに使いたい、という相談が難しいのはこのためです。

迷ったときの目安はシンプルです。「流すだけ」なのか、「録る・付ける・残す・配信する」のか。後者に入った瞬間、確認先が増えると考えてください。

「会場で流す」「配信する」「録画を残す」で手続きは別

イベントでの音楽の使い方3パターンを横に並べた概念図。左は会場のスピーカーから音楽が流れている場面、中央はカメラからネットへ配信されている場面、右は記録動画のファイルが保存されている場面で、それぞれの下に短いラベルが付いている
同じ1曲でも、使い方ごとに手続きは別に必要。会場分を済ませても、配信とアーカイブは自動ではカバーされない。

同じ1曲でも、使い方が変われば手続きも変わります。企画段階で、この3つのうちどれをやるのかをはっきりさせておきましょう。

A. 会場で流す・演奏する(当日その場だけ)

開演前BGM、出はけ曲、SE、生演奏、ダンスパフォーマンスの楽曲など。著作権(演奏)の手続きが関わる部分です。会場が手続きするのか主催者が申請するのかを、前述のとおり確認します。

B. ライブ配信する(同時配信・オンライン開催)

ネットで流す時点で、会場の分とは別に、配信についての手続きが必要になります。さらに、市販音源をそのまま配信に乗せる場合は、原盤側の許諾も関わってきます。配信ベンダーが権利処理まで請け負ってくれるとは限らないので、発注時に「権利処理はどちらの担当か」を必ず握っておきましょう。

C. 記録動画・アーカイブを残して公開する

当日の記録をあとから公開する、実施報告書に動画を添える、翌年の営業資料に使う——このあたりも、音楽が入っていれば手続きの対象になり得ます。「社内用だから」「関係者だけに見せるから」で線が引けるとは限らないので、公開範囲も含めて確認するのが安心です。

C はとくに、当日が終わってから相談されがちなところ。撮影が入る案件では、企画段階で「この動画をどこまで使うか」を主催者と決めておくと、あとで音を差し替える作業が発生しません。

手続きの進め方:4ステップ

一度に全部やろうとせず、順番に分けます。

ステップ1:会場に、使い方を添えて確認する

「当日、開演前と転換でBGMを流します。生演奏はありません。ライブ配信とアーカイブ公開の予定があります」——このくらい具体的に書いて、会場側で手続きされる範囲と、主催者側で申請が必要な範囲を聞きます。メールでやりとりし、回答を案件フォルダに残しておきましょう。

会場の回答が「主催者側でお願いします」であれば、ステップ2以降を自分で進めます。

ステップ2:使う曲を確定し、曲リストを作る

権利処理は、曲が決まらないと1ミリも進みません。ここが実務上いちばんのボトルネックです。演出や映像の担当に、選曲の締切を早めに伝えておきましょう。

リストに入れる項目は、だいたい次のとおりです。

この表がそのまま申請の元資料になり、当日のキューシートとも突き合わせられます。香盤やキューシートを作る段階で、曲名の列を1つ足しておくのがいちばん楽です。

ステップ3:曲ごとに管理団体を調べる

曲によって、管理を委託されている事業者が違います。JASRACのものもあれば、NexToneのもの、どちらにも委託されていないものもあります。JASRACの作品データベース(J-WID)や、NexToneの作品検索で曲名から調べられます(サービス名や画面は変わることがあるので、各団体の公式サイトから辿ってください)。

ここで、海外曲、映画・アニメの劇伴、同人・インディーズの曲は要注意です。管理状況が分かりにくかったり、日本の団体が管理していなかったりして、権利者に直接連絡が必要になることがあります。時間がかかるので、早めに当たりをつけておきましょう。

ステップ4:利用形態ごとに申請し、控えを残す

管理団体の手続きは、公式サイトから申請できます。原則として、使う前に手続きを終えておくのが基本です。使用料は、入場料の有無・定員・使用時間などをもとに、各団体の使用料規程で算定されます(規程は改定されることがあるため、金額は必ず最新の公式情報で確認してください)。

申請の控えと、会場からの回答メールは、案件フォルダの「権利」フォルダにまとめて保存しておきましょう。翌年の同じ案件で、丸ごと参照できます。

許諾が要らない場合もあるが、企業イベントでは当てはまりにくい

著作権法には、営利を目的とせず、聴衆から料金を受けず、出演者に報酬も支払わない——この3つをすべて満たす上演・演奏には許諾が要らない、という定めがあります(著作権法第38条第1項)。学校行事や地域の無償の催しなどが想定されている規定です。

ただし実務では、3つすべてを満たすイベントは多くありません。企業のPRイベントや周年式典は、入場無料でも営利目的と見られる余地がありますし、演奏者やDJに謝礼を払えばその時点で外れます。「入場無料だから大丈夫」と単独で判断しないことが大事です。

この規定に当てはまりそうな案件でも、判断に迷ったら会場や管理団体に確認するほうが早く済みます。聞くのは無料です。

手続き以外で、選曲のときにできること

権利処理をラクにする選び方もあります。予算や納期が厳しい案件では、こちらから提案するのも一手です。

手続きを飛ばすと、あとで何が起きるか

脅すつもりはありませんが、影響の範囲は知っておくほうが判断しやすいので、簡単に書いておきます。

配信中にプラットフォーム側の自動検知で音声がミュートされたり、アーカイブが公開停止になったりすることがあります。本番中に起きると、進行卓ではどうにもできません。また、あとから権利者や管理団体から連絡が入り、主催者・制作会社の双方に対応の手間が発生します。金銭的な精算だけでなく、主催者との信頼にも関わるのがつらいところです。

逆に言えば、曲リストを作って確認のメールを1本入れておくだけで、その多くは防げます。作業量としては、香盤に列を1つ足すのと同じくらいのことです。

明日やること

音楽利用の権利処理 チェックリスト

一度に全部やらなくて大丈夫です。忙しいときは「まずここだけ」の2つを押さえれば、大きな事故はかなり防げます。

まずここだけ(この2つは必須)

余裕があれば確認

よければ、こちらも

音楽まわりは、進行・発注・記録とひと続きです。あわせて見ると、選曲から当日、そのあとまでがつながります。

開演直前のイベント会場で、音響卓のディレクターとステージ上のスタッフが目を合わせて合図を交わし、これから音楽が鳴り出す場面

音楽の権利は、調べ始めると細かくて、途中で嫌になることもあると思います。でも、この確認をしているのは、曲を作った人への敬意を、イベントの側から形にしているということでもあります。誰も見ていない作業ですが、そういう仕事が、主催者にも出演者にも信頼される制作会社を作っていきます。

全部を今日理解しなくて大丈夫です。香盤を開いて、音楽が鳴る場面に印をつけられたなら、権利処理はもう半分終わっています。