
イベントキューシートの作り方|音響・照明・映像のきっかけを合わせる
香盤表はきちんと作った。進行の流れも頭に入っている。それなのに、本番になると「あれ、いま照明が変わるはずだったのに」「映像の頭出しがワンテンポ遅れた」——そんな小さなズレが、あちこちで起きる。イベントの現場で、覚えのある感覚ではないでしょうか。
その多くは、段取りが悪いからでも、オペレーターの腕が足りないからでもありません。「いつ・何を・誰の合図で動かすか」が、一枚に書き出されていないだけのことが、とても多いのです。香盤表は「時間と流れ」の地図ですが、当日その一瞬を合わせるには、もう一段細かいキューシート(きっかけ表)が要ります。
この記事では、そのキューシートを「どの粒度で・どう番号を振って・どう合図するか」に絞って、一緒に組み立てていきます。むずかしい理論はありません。頭の中にある「ここでこう動く」を、そのまま一行ずつ紙に落としていくだけです。
結論:キューシートは、進行を「きっかけ」の単位で1行ずつに割り、通し番号(Q1, Q2…)を振った表です。各行に「何番・どのタイミングで・どのセクション(音響/照明/映像)が・何をするか・誰の合図で」を書きます。ポイントは3つ。① 香盤表とは別物として、合図だけを抜き出して細かく持つ。② 番号は連番で固定し、当日は「Qいくつ、スタンバイ」「Qいくつ、ゴー」で合わせる。③ リハで一度通し、実際のタイミングで番号と尺を直す。まずは、いちばん合図の多い1シーン(オープニングなど)だけをキュー割りしてみるところから始めれば大丈夫です。
キューシートは「オペレーターのための台本」であると同時に、進行担当(コールを出す人)と現場全員の共通言語です。同じ番号を全員が見ているから、暗い会場でも、インカム越しでも、一言で合図がそろいます。
香盤表とキューシートは、何がちがうのか
まず、混同しやすいこの2つの役割を分けておきます。どちらも大切ですが、見ている単位がちがいます。
- 香盤表(進行台本):時刻・プログラム・登壇者・尺など、進行の流れ全体を俯瞰する表。「10:00 開会挨拶」「10:05 主催者スピーチ」のように、分単位で並ぶ。
- キューシート(きっかけ表):その流れの中で、音響・照明・映像などが実際に動く一瞬を抜き出した表。「Q5:スピーチ終わりの拍手で、照明を客席明転/BGMフェードイン」のように、秒単位・動作単位で並ぶ。
たとえば香盤表では「オープニング映像 3分」の一行でも、キューシートにすると、
- Q1:影ナレ終わりで場内暗転
- Q2:暗転きっかけでOP映像スタート
- Q3:映像ラスト5秒でステージ明かり仕込み
- Q4:映像終わりで登壇者INのきっかけ
というように、ひとつのブロックが複数のキューに分かれます。香盤表だけで当日を回そうとすると、この「一瞬の合図」が担当者の記憶頼みになり、ズレが生まれます。キューシートは、その記憶を紙に固定する道具です。

キューシートの列構成——1行に「6つ」だけ
キューシートは、凝りすぎると当日読めません。暗い会場で、指でたどって一目でわかることが最優先です。次の6項目を、横一列に並べるのが基本です。
- Q番号:Q1, Q2… の通し番号。当日のコールで使う名前なので、いちばん左に大きく。
- タイミング(きっかけ):何を合図に動くか。「影ナレ終わり」「〇〇様のご登壇で」「映像ラスト5秒」など、目や耳で確認できる出来事で書く。
- セクション:音響/照明/映像/舞台転換など、誰が動くか。色分けや記号でパッと分かるように。
- アクション(内容):何をするか。「OP映像スタート」「客席明転」「ワイヤレスマイク1・2 ON」など、動作を具体的に。
- 合図の出し方:誰が・どうコールするか。「進行→インカムで"Q5ゴー"」「タイム進行で自走」など。
- 備考:尺・フェード秒数・戻し・注意点。「フェードイン3秒」「押していたらカット可」など。
コツは、「タイミング」を時刻ではなく"出来事"で書くことです。「10:07 に映像スタート」ではなく「主催者スピーチの"よろしくお願いします"で映像スタート」。当日は必ず時間が前後するので、時刻ではなく出来事にひもづけておくと、押しても巻いてもきっかけがズレません。

番号の振り方——連番で固定し、あとから足さない
キュー番号は、上から順に Q1, Q2, Q3… と連番で振ります。ここで一番大事なのは、一度振った番号は、できるだけ動かさないことです。
リハや直しで途中にキューを足したくなったら、番号を全部振り直すのではなく、「Q5.5」や「Q5a」のように枝番で差し込みます。全部振り直すと、オペレーターが手元に書き込んだメモや、他のセクションの認識と食い違い、当日の事故のもとになります。番号は住所です。住所がころころ変わると、誰も家にたどり着けません。
- セクションごとに記号を足すのも有効です(音響=A、照明=L、映像=V)。「LQ5(照明キュー5)」のように書けば、インカムで「エルキュー5、スタンバイ」と、担当を名指しでコールできます。
- 大規模で本数が多いときは、シーンごとにブロック分け(100番台=オープニング、200番台=本編…)しておくと、差し込みや抜けに強くなります。
いずれにしても、当日の直前に番号を大きく振り直さない。これだけ守れば、番号まわりの事故はぐっと減ります。
コール(合図)の言葉をそろえる——「スタンバイ」と「ゴー」
キューシートが活きるのは、当日のコールが全員で統一されているときです。バラバラの言い方をすると、暗い会場・インカム越しでは必ず取りこぼしが出ます。基本は、次の2段階に統一します。
- スタンバイ(準備):「Q5、スタンバイ」——数秒前に予告する。オペレーターは手を構える。
- ゴー(実行):「Q5、ゴー」——その瞬間に出す。ここで実際に動く。
ポイントは、「スタンバイ」と「ゴー」を必ず分けることです。ゴーだけだと、オペレーターが身構える前に合図が来て、ワンテンポ遅れます。予告→実行の2拍にするだけで、きっかけの精度がまるで変わります。
そして、コールを出す人(コーラー)は一人に絞るのが原則です。ふつうは進行担当や舞台監督(SM)。複数人が思い思いに合図を出すと、どれに従えばいいか分からなくなります。「合図はこの声だけ」と決めておきましょう。曖昧になりやすい言葉(「はい」「そろそろ」「じゃあ」)は使わず、必ず番号+スタンバイ/ゴーで。
なお、映像の頭出しやBGMのように尺が決まっているものは、ゴーの後はオペレーターの自走に任せます。全部を一つずつコールしようとすると、コーラーがパンクします。「ここは自走」「ここは手合図」を、備考欄で分けておきましょう。
リハーサルで詰める——キューは「通して」直す
キューシートは、机上で完成させないのがコツです。実際のタイミングは、リハで通してはじめて分かります。リハでは、次の3つを重点的に直します。
- きっかけのズレ:書いた合図の出来事で、本当に間に合うか。「映像ラスト5秒」では遅い、「ラスト10秒でスタンバイ」に前倒し、など。
- 尺・フェード秒数:フェードイン/アウトの秒数、明転・暗転の速さを、実際に見て決める。数字を備考に書き戻す。
- 抜け・重なり:同じ瞬間に複数のキューが集中していないか。集中しているなら、コーラーが出しきれるよう前後に分散するか、一声でまとめる(「Q7・8まとめてゴー」)。
リハで直したら、その場で全員のキューシートに反映します。「口頭で伝えたつもり」がいちばん危険です。紙(またはデータ)を正として、番号・尺・きっかけを更新し、版(バージョン)と日時を入れておくと、当日「どれが最新か」で迷いません。

具体例——オープニングをキュー割りしてみる
言葉だけだと掴みにくいので、よくある「開会〜オープニング映像〜登壇」の流れを、キューにしてみます。あくまで一例です。
| Q | きっかけ | 担当 | 内容 | 合図 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| Q1 | 定刻・影ナレ開始 | 音響 | 影ナレBGM IN | 進行→ゴー | フェードイン3秒 |
| Q2 | 影ナレ「まもなく開演」 | 照明 | 場内フェードダウン | 進行→ゴー | 5秒でゆっくり |
| Q3 | 場内暗転 | 映像 | OP映像スタート | 進行→ゴー | 尺2分・以降自走 |
| Q4 | 映像ラスト10秒 | 照明 | ステージ明かり仕込み | 進行→スタンバイ | Q5と連続 |
| Q5 | 映像終わり | 照明/音響 | ステージ明転/登壇BGM IN | 進行→ゴー | 登壇者INのきっかけ |
| Q6 | 登壇者センター着 | 音響 | ワイヤレス1 ON | 進行→ゴー | ハウリング注意 |
こうして並べると、「映像終わり」の一瞬に、照明・音響・登壇が重なっていることが見えます(Q5)。ここはコーラーが「Q5、ゴー」で一声にまとめ、各セクションが同時に動く、と決めておく。紙にすると、混みやすい瞬間が事前に見えるのが、キューシートのいちばんの利点です。
キューシート作成 チェックリスト
作るとき、または当日を迎える前に確認したいことを並べます。数は多めですが、上から全部やる必要はありません。忙しいときは「まずここだけ」の2つで十分です。
まずここだけ(この2つは必須)
- きっかけを時刻ではなく「出来事」で書いたか(押し・巻きでズレないように)
- コールを「番号+スタンバイ/ゴー」に統一し、出す人を一人に決めたか
余裕があれば確認
- 各行に6項目(番号・きっかけ・担当・内容・合図・備考)がそろっているか
- 番号は連番で固定し、差し込みは枝番(Q5.5など)にしたか
- 自走する箇所と手合図で出す箇所を、備考で分けたか
- フェード・明暗転の秒数を、リハで見て備考に書き戻したか
- 同じ瞬間にキューが集中していないか確認し、分散か一声まとめにしたか
- リハの直しを全員のシートに反映し、版・日時を入れたか
- ★非常時(中断・停電・避難)に戻す合図を、別に決めてあるか
※★の非常時対応は、通常のキューとは別立てで用意しておくと安心です。中断の合図、客電を上げる担当、音を止める順番など、「止める側のキュー」も一本持っておきましょう。詳しくは緊急時対応の記事もあわせてご覧ください。
すべてを一度で満たせなくても大丈夫です。「まずここだけ」の"出来事で書く"と"番号+スタンバイ/ゴーで一人がコール"を押さえるだけで、当日のきっかけはぐっとそろいます。案件を重ねながら、自分の現場に合ったキューの粒度に育てていきましょう。
よければ、こちらも
キューシートは、香盤表・進行のバッファ・非常時の判断とセットで効いてきます。あわせて見ると、当日の「合わせる力」がより固まります。
- 香盤表の作り方:当日を止めない進行台本チェックリスト
- 進行のバッファ設計:巻き・押しを吸収する時間の作り方
- 進行が押したときのリカバリー:判断の順番チェックリスト
- 緊急時対応・避難誘導:フローの作り方

香盤表があるのにきっかけが合わないのは、あなたの準備が足りないからではありません。人と機材が一斉に動く現場では、「一瞬の合図」は記憶だけでは支えきれない。だからこそ、それを一行ずつ紙に置いて、全員で同じ番号を見る。ただそれだけで、当日の景色はずいぶん変わります。
「ここ、合図が重なるな」——キューシートを組みながら一度そう気づけた時点で、あなたは当日を止めない準備を、もう始めています。