夜のオフィスで、受付バックパネルの完成予想図(パース)をモニターに映しながら、紙の見積表に工程ごとの費目を書き出しているイベント制作ディレクター

イベント装飾・造作物の制作費見積|大道具を工程で分けて拾う手順

デザイナーさんからパース(完成予想図)が届いて、クライアントさんも「いいですね、これでいきましょう」と喜んでくれた。ほっとしたのもつかの間、営業から「で、これいくらで出す?」と聞かれて、手が止まる。装飾会社さんの見積を開くと、書いてあるのは「造作一式 ¥440,000」の一行だけ——。

装飾・造作物(大道具)の見積は、イベントの費目のなかでもいちばん「中身が見えにくい」ところです。パースは完成した姿しか描きません。でも実際のお金は、図面を引いて、材料を買って、作って、運んで、建てて、バラして、捨てる(または保管する)までの工程のほうにかかっています。拾い漏れが起きるのは、見積が甘いからではなく、絵に描かれない工程があるからです。

この記事では、造作物の制作費を「作る・建てる・片付ける」の3つのまとまりに分けて、拾い漏れなく見積に載せる手順を一緒に整理していきます。むずかしい積算の知識はいりません。工程を順番に並べて、1行ずつ埋めていくだけです。

結論:造作物の制作費は、モノの値段ではなく工程の合計として拾います。押さえるのは3つ——(1)「作る(設計・材料・製作)」「建てる(運搬・施工)」「片付ける(撤去・処分または保管)」の3つに分けて、7つの工程を1行ずつ置く、(2)会場条件(搬入経路の大きさ・施工できる時間帯・防炎などの規定)を先に確認して、金額が動く前提を見積に書く、(3)「一式」で届いた見積は、3つのまとまりのどこまで含むかを協力会社さんに確認する。まずは手元の見積に「片付ける」の行があるかどうか、そこだけ見てみましょう。

※造作物の仕様・工程・費用の組み方は、案件規模・会場・協力会社によって異なります。本記事の金額は説明のための仮の数字で、相場を示すものではありません。材料の防炎性能や施工の可否は、会場規定・所轄の消防の指導にもとづいてご確認ください。

何が起きているか——パースに描かれない工程がある

造作物の見積で拾い漏れが起きやすいのは、だいたい次のような場面です。

どれも、パースだけを見て金額を考えると見えてこない工程です。逆に言えば、工程を先に並べてしまえば、漏れはかなり防げます。

造作物の制作費を「作る・建てる・片付ける」の7工程で拾う

まず、造作物にかかる工程を、3つのまとまり・7つの工程に分けます。見積表には、この7行をそのまま費目として置いてしまうのがおすすめです。

造作物の工程を3つのまとまりで示した図。左は工房で木材を切って組み立てている場面、中央は会場にパネルを運び込んで建て込んでいる場面、右は本番後にパネルをバラしてトラックに積んでいる場面
造作物のお金は、完成した姿ではなく工程にかかる。「作る」「建てる」「片付ける」の3つに分けると、絵に描かれない費用が見えてくる。

作る(設計・材料・製作)

  1. 設計:パースを、実際に作れる図面(制作図・施工図)に起こす費用です。大きな造作や、人が乗る・寄りかかるものは、強度の確認も含めて誰が設計するかを決めます。デザイン費と別に出るか、製作費に含まれるかは協力会社さんによって違うので、ここは必ず確認します。
  2. 材料:木材・パネル・出力シート・アクリル・塗料など。会場規定や所轄の消防の指導で、防炎性能のある材料(防炎ラベル付きの合板や布など)を求められることが多く、その場合は材料代や処理の費用が変わります。
  3. 製作:木工・塗装・出力と貼り込み・電飾の仕込みなど、工房での手間です。色の数や仕上げの細かさで大きく動くので、パースのどこまでを再現するかを先に決めておくと見積がぶれにくくなります。

建てる(運搬・施工)

  1. 運搬:工房から会場までの車両費です。車両のサイズと台数、積み下ろしの人手、搬入口から設置場所までの横持ち(台車での移動)も含めて考えます。往路だけでなく、撤去のときの復路も1行で見ておきます。
  2. 施工:会場での建て込みです。「何人で・何時間」で考えます。高い位置の作業があれば、脚立やローリングタワー、高所作業車の手配もここに入ります。

片付ける(撤去・処分または保管)

  1. 撤去:本番後のバラシです。施工より短く済むことが多いですが、ゼロにはなりません。深夜の撤去なら、人数と時間帯の条件を施工と同じように確認します。
  2. 処分または保管:使い終わった造作物の行き先です。捨てるなら処分費、次回も使うなら倉庫の保管費と、次に使うときの運搬・補修費がかかります。どちらにするかは、見積の段階で一度クライアントさんと決めておくと、本番後に慌てません。

7つ全部を細かく積算できなくても大丈夫です。まずは7行を見積表に置いて、わかるところから埋める。わからない行には「仮」と書いておくだけで、漏れは「抜けている」から「確認中」に変わります。

会場条件で金額が動く3つのポイント

同じパースでも、会場が変わると金額が変わります。見積を出す前に、次の3つだけは会場規定と下見で確認しておきましょう。

会場規定の読み方は、会場規定の確認手順で詳しく整理しています。採寸の観点は会場下見チェックリストもあわせてどうぞ。

具体例:受付バックパネルの「一式」を開いてみる

たとえば、受付の後ろに立てる幅3.6m×高さ2.4mの木製バックパネルとカウンターを例に考えてみます(金額は説明のための仮の数字です)。

最初に届いた見積は「造作一式 ¥440,000」。協力会社さんに3つのまとまりで内訳を聞いてみると、こうでした。

まとまり工程金額(仮)一式に含まれていたか
作る設計¥50,000含む
作る材料¥120,000含む
作る製作¥180,000含む
建てる運搬(往復)¥60,000含まない
建てる施工¥90,000含む
片付ける撤去¥45,000含まない
片付ける処分¥40,000含まない
合計¥585,000

「一式」の¥440,000は、設計・材料・製作・施工の4工程(50,000+120,000+180,000+90,000)の合計でした。運搬・撤去・処分の3工程、あわせて¥145,000(60,000+45,000+40,000)が見積の外にあったことになります。これは全体¥585,000の約4分の1です。

協力会社さんが何かを隠していたわけではありません。「一式」が指す範囲を、お互いに確かめていなかっただけです。3つのまとまりで聞くだけで、範囲のずれは見積の段階で見つけられます。

影響:拾い漏れは、本番後にまとめてやってくる

造作物の拾い漏れが厄介なのは、多くが「片付ける」側、つまり本番が終わってから表に出てくることです。

逆に、7行が見積に載っていれば、本番後の精算は「確認した数字どおり」に進みます。見積の段階でひと手間かけることは、本番が終わった夜の自分を守ることでもあります。

明日やること(まず15分でできる一手)

一度に全部やらなくて大丈夫です。次の3つから試してみてください。

  1. 手元の造作の見積に「片付ける」の行があるか見る:撤去・処分(または保管)が載っているか。なければ、協力会社さんに「撤去と処分は含みますか?」と一言聞いてみる。
  2. 見積表のテンプレートに7行を足す:設計・材料・製作・運搬・施工・撤去・処分または保管。次の案件から、その7行を埋めるところから始める。
  3. 見積依頼の文面に、会場条件を3行で書く:搬入経路の大きさ、施工できる時間帯、防炎・固定の規定。わからない項目は「確認中」と書けば十分です。

造作物見積のチェックリスト

見積を出す前に、上から確認してみてください。

作る

建てる

片付ける

全体

造作物の見積は、最初から全部の数字が埋まらなくて大丈夫です。7つの行が並んでいて、どこが確定でどこが仮かが見えていれば、それはもう「漏れのない見積」の形になっています。パースのきれいさに、工程の誠実さを1行ずつ足していく。その積み重ねで、本番が終わった夜も、気持ちよく精算まで終えられます。次の案件では、見積表に「片付ける」の行を1つ足すところから始めてみましょう。

本番当日の朝、完成した木製の受付バックパネルの前で、イベント制作ディレクターと装飾会社の職人が並んで仕上がりを眺め、笑顔で言葉を交わしている
工程を1行ずつ拾っておけば、完成した姿を、安心して迎えられる。

よければ、こちらも

造作物の見積は、見積書の組み立て・会場規定・撤収とつながっています。前後をあわせて見ると、拾い漏れがもう少し減らせます。

関連用語


本記事は、イベントの装飾・造作物(大道具)の制作費を見積に載せる際の一般的な実務ノウハウの整理です。記載した工程・金額・事例は説明のための例で、相場や標準を示すものではありません。材料の防炎性能、会場での施工・固定の可否、廃材の処理方法は、会場の利用規定・所轄の消防・関係法令にもとづいてご確認ください。