イベント当日の朝、会場入口のわきで、集まった数名の当日スタッフに一枚の紙を配りながら持ち場を説明しているイベント制作ディレクター

イベント派遣スタッフの手配|人数の決め方と当日指示書の作り方

本番の朝、集合場所に立った当日スタッフから、いちばん最初に来る質問はだいたい同じです。

「私、何をすればいいですか」

その場で口頭で説明して、なんとなく持ち場に散っていく。しばらくして、受付から「これ、どうしましょう」と呼ばれる。誘導のポジションを見にいくと、二人並んで手が空いている。そのあいだに、いちばん人が必要なクロークが一人で回らなくなっている——。

当日スタッフの手配は、発注のときに8割が決まっています。当日の説明がうまいかどうかではありません。

結論:押さえるのは3つです。① 人数は「頭数の勘」ではなく、ポジション×時間帯で出す——足りない・余るの両方が、ここで防げます。② 契約のかたちで「誰が指示を出すか」が変わる——スタッフ会社にまとめて頼む請負なら、指示は現場リーダーを通すのが基本です。③ 当日指示書はA4一枚に収める——集合・持ち物・担当・連絡先。この4つが書いてあれば、朝の説明は3分で終わります。

先に言っておくと、これは「ちゃんと準備できていない現場が悪い」という話ではありません。スタッフの人数が最後まで決まらないのは、たいてい主催者側の来場者数の見込みが直前まで動くからです。こちらの段取りの問題ではないことのほうが多い。

だから、ここでは見込みが動いても崩れない組み方を拾います。

①人数は「ポジション×時間帯」で出す

「当日スタッフ、10人くらいですかね」。この決め方が、当日いちばん揺れます。

代わりにやることは単純で、先にポジションを並べて、そこに時間帯をかけるだけです。

手順1:ポジションを縦に並べる

まず、当日「人が立つ場所」をぜんぶ書き出します。人ではなく、場所と役割です。

このポジションの洗い出しは、スタッフ配置表と役割分担と同じ考え方です。すでに配置表を作っているなら、その縦軸をそのまま使えます。

手順2:時間帯を横にかける

ポジションごとに、何時から何時まで人が必要かを引きます。ここで初めて「延べ人数」が見えます。

現場で効くのは、同じ人数がずっと必要なポジションは、意外と少ないという事実です。

ポジション忙しい時間帯それ以外
受付開場30分前〜開演直後ほぼ手が空く
クローク開場直後と終演直後中盤は1人で足りる
場内誘導開場〜開演、休憩、終演本編中は薄くできる
外周・駐車場開場前と終演後開演後は1〜2人

つまり、受付の人がそのままクロークに移る、外周の人が終演前に場内へ戻る、という動きを最初から組んでおけば、頭数は減らせます。逆にこれを組まずに「全ポジション×全時間」で数えると、手待ちだらけの発注になります。

手順3:休憩・交代・予備を足す

ここを忘れると、当日「昼メシに行けない人」が出ます。

遊軍を削ると、結局ディレクター自身が遊軍になります。そうすると全体を見る人がいなくなる。遊軍は、自分の手を空けるための一人だと思ってください。

手順4:単価をかけて、見積に載せる

人数が出たら、費用に落とします。時給ベースなのか、1名1日ベースなのか、早朝・深夜・延長の割増はどうなるのか。ここは人件費の積算の考え方に整理してあります。

見積の段階で押さえておきたいのは、延長が出たときの単価を先に確認しておくことです。終演が押したときに、その場で交渉するのはお互いつらい。発注書に一行入れておけば済みます。

②契約のかたちで、「誰が指示を出すか」が変わる

ここが、現場でいちばんあいまいなまま進みがちなところです。

イベントの当日スタッフを外部から入れるとき、実務上よく使われるかたちは大きく2つあります。

A. スタッフ会社に業務ごと請け負ってもらう(請負・業務委託) 「受付とクロークの運営一式を、リーダー含む6名で」といった頼み方。スタッフ会社が自分たちの責任で人を集め、現場リーダーを立てて、その人が自社スタッフに指示を出します。

B. 労働者派遣として人を出してもらう(派遣) 派遣元と雇用関係のあるスタッフが来て、発注側(派遣先)が直接指示を出せるかたち。ただし派遣には法令上の手続きと制限があり、たとえば警備業務や建設業務など、労働者派遣が認められていない業務があります。また、日雇い(30日以内)の派遣は原則として禁止されていて、例外に当たるかどうかは要件で決まります。

イベントの単発案件で「当日だけ人がほしい」というとき、Aのかたちになっていることが多いのは、このあたりが理由です。

実務でいちばん大事な一行

Aの請負で頼んだ場合、発注側が個々のスタッフに直接こまかい業務指示を出し続けると、契約の実態が派遣と変わらなくなってしまう、という論点があります(いわゆる偽装請負として問題になる整理です)。

だから現場では、こう動きます。

「そんなの回りくどい」と感じるかもしれません。でも実際にやってみると、このほうが速いです。ディレクターが8人に個別に言うより、リーダー1人に言ったほうが、伝わり方もそろいます。

そして何より、リーダーが誰なのかを発注時に決めておくこと自体が、当日の安心につながります。「困ったら、まずこの人」がいる状態を作る、ということです。

ここは契約の実態で判断される領域で、案件のかたちによって扱いが変わります。自社の運用が問題ないかどうかは、取引先のスタッフ会社と、必要に応じて社会保険労務士や自社の管理部門に確認してください。この記事は一般的な整理です。

警備は、警備会社へ

もうひとつ、混同されやすいところを。

来場者の列整理や車両の誘導のうち、警備業法上の「警備業務」に当たるものは、警備業の認定を受けた事業者でないと請け負えません。「人手が足りないから、当日スタッフに交通整理をお願いする」ができない領域がある、ということです。

どこからが警備業務に当たるかは案件ごとの判断になりますが、混雑が読める案件は、最初から警備会社を別建てで見積に入れておくのが現場としてはいちばん静かに済みます。組み方は雑踏警備計画と警備会社との連携にまとめています。

③発注のときに伝えること

スタッフ会社への発注は、電話で「◯月◯日、8名お願いします」で通ってしまいます。通ってしまうから、当日ずれます。

メールで、この項目を埋めて送る。それだけで精度が変わります。

伝える項目具体例
日時・拘束時間8:30集合〜18:30解散(実働◯時間・休憩含む)
場所・集合地点◯◯ホール 搬入口横 通用口(地図URL)
人数と内訳受付3/クローク2/誘導2/リーダー1
業務内容来場者受付、リスト照合、記念品配布、退場誘導
服装・身だしなみ黒パンツ・白シャツ・スニーカー可/ビブスは主催支給
持ち物筆記具、動きやすい靴、昼食(支給の有無)
現場責任者当社◯◯(連絡先)/御社リーダー(当日連絡先)
延長・早出の扱い30分単位/単価は別紙のとおり
事前研修の要否前日オンライン説明15分(任意参加)

とくに「服装」と「支給の有無」は、抜けると当日その場で困る人が出ます。昼食が出ると思って持ってこなかった、という状況は、朝いちの一行で防げます。

発注書・覚書として残す形は発注書・覚書の書き方を、支払いまでの流れは協力会社の発注・精算の進め方をどうぞ。

押さえる時期

繁忙期(春・秋の週末、年度末、大型連休)は、人が先に埋まります。会場や機材と同じです。

「まだ人数が固まっていないので、決まったら連絡します」で置いておくと、その日の枠自体がなくなります。数が未確定でも、日程だけは先に投げる。これは覚えておくと効きます。

④当日指示書は、A4一枚に収める

ここからが、当日の効き目がいちばん大きいところです。

当日スタッフは、その日はじめて会場に来ます。案件の背景も、主催者の意向も、これまでの経緯も知りません。知らないのが当たり前です。

だから、朝の説明を口頭だけで終わらせない。紙を一枚渡す。

当日スタッフに配るA4一枚の指示書の構成を示した図。紙が4つの区画に分かれ、左上には時計と通用口に集まるスタッフの絵と「集合」のラベル、右上にはビブス・筆記具・飲み物が並んだ絵と「持ち物」のラベル、左下には会場の簡単な平面図に立ち位置の印が付いた絵と「担当」のラベル、右下にはトランシーバーとスマートフォンの絵と「連絡先」のラベルが描かれている
当日指示書に入れるのは、この4つだけで足ります。背景も経緯も要りません。「今日、自分が、どこで、何をして、困ったら誰に言うか」が分かればいい。

紙に載せるのは、この4つだけです。

1. 集合 何時に、どこに。会場の正面ではなく通用口であることが多いので、地図と、建物のどの入口かの一言を書きます。「◯◯ホール 北側 搬入口横の通用口」。ここが曖昧だと、朝いちで電話が鳴ります。

2. 持ち物・服装 支給されるもの/自分で持ってくるもの。昼食の有無。ロッカーや荷物置き場の場所。

3. 担当と、その日の流れ 自分がどのポジションで、何時に何が起きるか。全体の香盤ではなく、その人の分だけでいい。

9:00  集合・朝礼
9:20  受付設営(テーブル・リスト配置)
9:50  配置につく
10:00 開場 ← いちばん混みます
10:40 受付を1名残して、他は場内誘導へ
12:00 交代で休憩(30分)
16:30 終演・退場誘導
17:00 撤収・解散

4. 連絡先と、困ったときの言い方 現場リーダーの名前と連絡先。インカムを渡すなら、呼び方のルールも一行。インカム運用とコールの基本ルールに基本形があります。

そして、最後にこの一行を足しておくと、当日がかなり静かになります。

判断に迷うことがあったら、その場で答えず「確認します」と伝えて、リーダーにお知らせください。

当日スタッフがいちばん困るのは、答えを知らないのに答えを求められることです。「そのときは確認していい」と紙に書いてあるだけで、無理な即答が減ります。クレームの芽を摘む効果も大きい。トラブルが起きたときの記録の残し方はトラブル初動と記録の残し方をどうぞ。

よく聞かれることを、先回りしてQ&Aにする

余白があれば、想定質問を3〜5個。これが実は本体より効きます。

来場者の撮影・個人情報まわりの扱いは来場者の個人情報・撮影同意に、迷子や落とし物の運用は迷子・落とし物の運用ルールに整理してあります。指示書にはその日の答えだけを一行で書けば十分です。

⑤当日、受け入れる側の段取り

紙を作ったら、あとは渡し方です。

最後のふたつは、段取りの話ではないように見えて、いちばん効きます。気持ちよく働いてもらった現場は、次の案件でいい人を回してもらえます。

明日やること

いま案件を抱えているなら、この3つから始められます。どれも15分あれば形になります。

  1. ポジションを縦に、時間帯を横に、表を1枚作る——人数の議論は、この表ができてから始めます。作った瞬間に「ここ、手が空くな」が見えます
  2. スタッフ会社に、日程だけ先にメールする——人数未定でOK。「◯月◯日、当日運営で最大◯名程度、日程だけ先に押さえさせてください」。この一通が繁忙期に効きます
  3. 当日指示書のひな形を、A4一枚で作る——集合・持ち物・担当・連絡先の4区画。一度作れば、次の案件から日付と場所を差し替えるだけです

3つ目は、今日じゃなくていいです。でも一度作ると、この先ずっと使えます。

チェックリスト

発注の前に

発注のときに

当日までに

当日

全部そろわなくて大丈夫です。「ポジション×時間帯の表」と「A4一枚の指示書」の2つがあれば、当日の大きいところは押さえられます。

よければ、こちらも

当日スタッフの手配は、配置・人件費・当日運営とひと続きの仕事です。あわせて見ると、発注のときに迷わなくなります。

イベント終了後の会場入口で、帰っていく当日スタッフたちに笑顔で頭を下げて見送っているイベント制作ディレクター

当日スタッフの手配は、報告書に一行も残りません。「受付がスムーズだった」と言われることはあっても、それが誰の段取りだったかは、たぶん誰も覚えていません。

でも、朝に配った紙一枚で、その日一日、8人が迷わずに立てた。それは確かに起きたことです。

一度に全部そろえなくて大丈夫です。まずは、次の案件でポジションと時間帯の表を1枚。そこから始めれば十分です。

そしてもし、いま「何人頼めばいいんだろう」と手が止まっているなら——それは、当日スタッフが困らないように考え始めている、ということです。 その視点を持っている人の現場は、たいてい、ちゃんと回ります。

関連用語


本記事は一般的な実務ノウハウの整理です。労働者派遣・請負(業務委託)の区分、日雇い派遣の可否、警備業務の範囲、休憩・労働時間の取り扱いなどは、労働者派遣法・労働基準法・警備業法および契約の実態によって判断されます。個別の案件での扱いは、取引先のスタッフ会社、社会保険労務士、所轄の労働局・警察(公安委員会)等にご確認ください。会場の規定が本記事より厳しい場合は、そちらが優先されます。