夜のオフィスの机で、秋の案件を並べた日程表とカレンダーを前に、協力会社への電話メモを書いているイベント制作ディレクター

イベント繁忙期の機材・人員の押さえ方|先に押さえる順番と伝え方

「その日、もう埋まってるんですよ」

いつもの音響会社に電話をかけて、返ってきた一言。まだ8月なのに。しかも、去年も一昨年も同じ会社に頼んでいた案件です。

慌てて次の会社に電話をかける。そこも埋まっている。3社目でようやく「機材は出せますが、オペレーターが手配できるか分かりません」。

——秋の案件が並び始めるこの時期、一度は通る道だと思います。

先に言っておきたいのですが、これはあなたが動くのが遅かったから起きたことではありません。繁忙期は、案件が確定する速さより、相手のカレンダーが埋まる速さのほうが速いというだけです。クライアントの決裁がまだ降りていないのに、協力会社の予定だけが先に埋まっていく。この時間差は、制作側の努力ではどうにもなりません。

だから、やることは「もっと早く動く」ではありません。確定していない段階でも押さえられる形を持っておくことです。

結論:繁忙期の手配は、次の3つで組み立てます。
① 代替の効かないものから順に押さえる——会場 → キーマン(人) → 特殊機材 → 汎用機材。台数を増やせるものは後回しでかまいません。
② 押さえるときは「日程・概算規模・いつ確定するか」の3点をセットで伝える。「取れたら連絡ください」では相手のカレンダーに乗りません。
③ 未確定なら未確定と言って、期限つきで仮押さえする。隠して押さえるより、期限を切って正直に頼むほうが、次も押さえてもらえます。

※リードタイム(何日前に動くか)の目安は、地域・会場・取引先の規模によってかなり違います。本記事の数字は叩き台として使い、最終的にはお付き合いのある会社に直接聞いて自社版を作ることをおすすめします。

繁忙期に何が起きているのか

取り合いが起きる理由は、単純に「同じ日に案件が集中するから」です。ただ、もう少し中を見ると、制作側から見えにくい事情が3つあります。

1. 相手は「日」ではなく「稼働」で埋まっている

こちらは本番日1日を押さえたつもりでも、協力会社側は仕込み・撤収を含めた稼働日で予定を組んでいます。本番が土曜1日でも、前日仕込み・当日撤収なら金土の2日が押さえられる。「1日だけなんですけど」が、相手のカレンダーでは2〜3日になっていることは珍しくありません。

2. 人と機材は別々に埋まる

機材は倉庫にあれば出せますが、それを運んで組んで回す人がいなければ現場は動きません。繁忙期に先に尽きるのは、たいてい機材ではなく人のほうです。「機材は出せますが、オペが立てられません」という返事は、断り文句ではなく本当のことを言っています。

3. 相手も未確定の案件を抱えている

協力会社側も、確定していない仮押さえをいくつも抱えています。だから「空いてます」と言われた日が、翌週には埋まっていることがある。先に確定させた人から順に席が決まる、というのが繁忙期の実態です。

このどれも、こちらが悪いわけではありません。ただ、知っていると打ち手が変わります。

いつが繁忙期になりやすいか

案件の種類によって違いますが、日本のイベント制作では次のあたりが重なりやすい時期です。

時期重なりやすい案件
9〜11月展示会、周年式典、自治体の秋祭り、スポーツ大会、内定式・表彰式
12月忘年会、クリスマス関連、年末商戦の販促イベント
3月年度末の総会・表彰、卒業・送別、決算期の締めイベント
4〜5月入社式、新年度のキックオフ、ゴールデンウィークの集客イベント

そのうえで、同じ月の中でもさらに集中する日があります。

自分の案件がこの重なりに入っているかどうかは、カレンダーを見れば1分で分かります。入っていたら、後述の順番で動き始める合図だと思ってください。

何から押さえるか——「代わりがきかない順」に並べる

押さえる順番を決める基準は、締切の早さではありません。代わりがきくかどうかです。

会場・キーマン・特殊機材・汎用機材の順に押さえることを左から右へ並べて示した図
押さえる順番は「代わりがきかない順」。左ほど代替が効かず、右にいくほど台数や会社を増やして調整できます。

1. 会場(いちばん代わりがきかない)

その日に、その場所は1つしかありません。会場が動くと企画そのものが変わるので、ここは最優先です。会場の押さえ方は会場の仮押さえと日程調整の進め方で詳しく整理しています。

2. キーマン(人のうち、名前で頼んでいる人)

舞台監督、テクニカルディレクター、常に組んでいる音響・照明のオペレーター、MC・司会。「その人でないと困る」人は、機材より先に埋まります。会社に頼むのではなく、個人の予定を押さえる感覚で動きます。

出演者・MCの押さえ方はMC・タレント手配とキャスティングの進め方に、当日スタッフの手配はイベントスタッフ・派遣の手配にまとめています。

3. 特殊機材(台数が業界全体で少ないもの)

LEDビジョン、大型トラス・仮設ステージ、発電機・電源車、大型のスポットクーラー、中継車。倉庫に何十台もあるわけではない機材です。近隣の会社から借りて回すこともあるので、繁忙期は在庫がまとめて消えます。

仮設ステージ・トラスの手配、屋外の電源容量の確認もあわせて。

4. 汎用機材(数でなんとかできるもの)

スピーカー、ワイヤレスマイク、パイプ椅子、長机、テント、什器。台数を分けて複数社から集めれば形になるものです。ここは最後で大丈夫です。

この順番は、金額の大きい順ではありません。数十万円のLEDビジョンより、日当いくらの舞台監督のほうが先に埋まる。そこが繁忙期の分かりにくいところです。

リードタイムの目安(自社版を作るための叩き台)

「いつ動くか」は取引先によって本当に差があります。下の表は一般的によく言われている目安で、繁忙期はこれより早まると考えてください。

押さえるもの通常期の目安繁忙期の目安
会場3〜6か月前6〜12か月前
キーマン(舞台監督・オペ・MC)1〜2か月前3〜6か月前
協力会社の「日程だけ」の仮押さえ1〜2か月前2〜4か月前
特殊機材(LED・発電機・仮設ステージ)1か月前2〜3か月前
当日スタッフ・警備2〜4週間前1〜3か月前
汎用機材2〜3週間前1か月前

この表をそのまま信じる必要はありません。むしろ、いつもお願いしている3社に「うちの案件だと、いつまでに声をかけてもらえると助かりますか」と一度聞いてみるほうが、はるかに正確です。聞かれて嫌がる会社はまずありません。相手にとっても、早く言ってもらえるほうが仕事を組みやすいからです。

聞いた答えは、そのまま自社のリードタイム表になります。1回聞けば、来年からずっと使えます。

押さえるときに、必ずセットで伝える3つ

繁忙期に「押さえられる人」と「押さえられない人」の差は、電話の早さより伝え方にあります。

相手が予定表に書き込むために必要なのは、次の3つです。

① 日程——本番日だけでなく、仕込みから撤収まで

「10月17日の案件です」ではなく、「16日の午後に仕込み、17日が本番、17日の21時から撤収です」。相手は稼働日で予定を組んでいるので、全日程を言わないと押さえようがありません。ここが抜けていると、あとから「その前日は別現場です」となります。

② 概算規模——正確でなくてよい

「300人規模のホール、ステージあり、マイク6本くらい、LEDは2×3mを1面のイメージです」。金額が出せる粒度である必要はありません。相手が「何人・何台の体制が要るか」を想像できればそれで十分です。「詳細はまだですが、去年の◯◯と同じくらいの規模感です」でも通じます。

③ いつ確定するか——回答の期限を自分から言う

これがいちばん大事です。「9月5日にクライアントの決裁が降りるので、その日中にご連絡します」と自分から期限を切る。

「取れたら連絡します」は、相手のカレンダーに乗りません。 期限のない仮押さえは、相手にとっては予定を空けたまま待つということで、繁忙期にそれを長く続けてもらうのは無理があります。逆に期限が切ってあれば、相手はその日まで仮で押さえておけます。

そのまま使えるメール文例

件名:【仮押さえのお願い】10/17 ◯◯周年式典(9/5までにご返答します)

△△様

いつもお世話になっております。◯◯です。
下記の案件で、日程の仮押さえをお願いできないでしょうか。

■日程(仕込み〜撤収)
 10/16(金)13:00〜 仕込み
 10/17(土)10:00〜18:00 本番
 10/17(土)18:00〜21:00 撤収

■会場
 ◯◯ホール(大ホール/収容800)

■概算規模(現時点のイメージ・変更の可能性あり)
 着席300名/ステージ設営あり
 ワイヤレスマイク6本、LEDビジョン 2m×3m 1面
 ※昨年の△△案件と同程度とお考えください

■確定時期
 9/5(金)に主催者の決裁が降りる予定です。
 同日中に、確定・見送りのどちらでもご連絡します。

現時点では未確定の案件ですが、日程だけ押さえていただけると
大変助かります。難しい場合もお知らせいただければ、
こちらで別の組み立てを検討します。

よろしくお願いいたします。

「未確定です」と正直に書いてある点がポイントです。隠して押さえて後から落とすより、最初から未確定と言って期限を守るほうが、次も押さえてもらえます。

まだ案件が確定していないとき、どう押さえるか

コンペ中、見積提出中、社内稟議待ち——確定していない案件のほうが多いのが実際のところだと思います。このときの考え方を3つ。

期限を「短めに」切る

未確定のまま長く押さえると、相手の機会損失になります。1か月押さえてもらうより、2週間で一度必ず返事をするほうが信用されます。返事の日に決まっていなければ、「まだ決まっていません、あと1週間いただけますか」と連絡を入れる。連絡さえ入れば、たいていは待ってもらえます。

いちばん関係を悪くするのは、押さえたまま何も言わずに消えることです。

最大構成で押さえて、確定時に減らす

繁忙期は、足すより減らすほうが簡単です。LEDを1面にするか2面にするか決まっていないなら、2面で押さえておく。確定時に1面に減らすのは、たいてい受けてもらえます。逆に、1面で押さえてから2面に増やすのは、繁忙期にはほぼ通りません。

ただしこれは相手の在庫を止める行為なので、期限は必ず短く切るのとセットです。やりすぎると「あの会社の仮押さえは当てにならない」となり、来年から後回しにされます。

コンペ案件は「複数社に薄く」ではなく「1社に深く」

コンペで勝てるか分からない案件を、5社に仮押さえして回るのはおすすめしません。落ちたときに5社に断りの連絡をすることになり、そのコストは次の案件に効いてきます。

信頼できる1社に事情を全部話して押さえてもらい、落ちたら即座に解放する。このほうが、繁忙期を通して見ると圧倒的に有利です。コンペのスケジュール提示についてはコンペ提案でのスケジュール提示もあわせて。

落ちたら、その日のうちに解放する

これは技術ではなく、姿勢の話です。案件が流れた日に「解放します」と連絡を入れる。繁忙期の1日は、相手にとって売上そのものです。ここを丁寧にやっている制作会社は、次に無理を頼んだときに「まあ、あそこなら」と動いてもらえます。

繁忙期に強い人は、押さえるのが早い人ではなく、離すのが早い人だったりします。

押さえられなかったときの、順番のあるリカバリ

それでも埋まっていることはあります。慌てて全部を組み直す前に、影響の小さい順に試します。

1. 同等品・別メーカーに置き換える 「その機種はないが、同等品ならある」はよくあります。まず「ないですか」ではなく「近いもので出せるものはありますか」と聞きます。

2. 台数を分けて複数社から集める 椅子300脚が1社で出ないなら、200脚+100脚で2社。搬入と返却の手間は増えますが、企画は変えずに済みます。返却まで見ておくなら機材返却と精算も。

3. 仕様そのものを変える LEDビジョンが押さえられないならプロジェクター+スクリーンに。仮設ステージが厳しいなら、平台の高さを下げて簡素な構成に。見え方は変わりますが、当日は成立します。

4. 時間帯・日程をずらす 仕込みを前日午前から前々日夜に動かすと、相手の別現場と両立できることがあります。会場の仕込み可能時間との相談になりますが、聞いてみる価値はあります。

5. 会場側の設備・運用でカバーする 会場常設の音響・照明・什器を使う。会場の備品リストを一度もらっておくと、こういうときに助かります。会場規定の確認手順とあわせてどうぞ。

この5つを上から試すと、たいていどこかで止まります。「取れませんでした」とクライアントに言う前に、この5段を通ったかどうか——それだけ確認できれば十分です。

そして、断られた会社にも一言お礼を入れておきます。相見積で選ばなかった会社も同じです(相見積もりの取り方)。繁忙期に助けてくれるのは、たいてい以前に丁寧に断られた記憶がある会社のほうです。

クライアント・社内への伝え方

「繁忙期なので早く決めてください」——気持ちは分かりますが、この言い方だと相手を急かしているだけになり、決裁は早まりません。

期限と、そのときに手に入るものをセットで出すと伝わりやすくなります。

「10月17日はイベントが集中する時期で、機材と人員が押さえにくい日程です。9月5日までに規模(人数とステージの有無)が決まれば、いまお出しした構成のまま押さえられます。それ以降になる場合は、LEDをプロジェクターに変えるなど、構成を少し組み替えてご提案します。どちらでも当日は成立しますので、日程だけ先にご相談させてください」

責めていないし、脅してもいない。ただ「いつまでに何が決まると、何ができるか」を言っているだけです。決められないクライアントの多くは、決める材料がないだけなので、材料を出せば動きます。

社内向けも同じです。「稟議が遅い」ではなく、「9月5日を過ぎると構成が変わり、見積も作り直しになります」と、遅れたときに何が起きるかを事実として置いておく。これは制作スケジュールの逆算と一緒に使うと説明しやすくなります。

明日やること(30分でできます)

  1. 手元の9〜12月の案件を、紙1枚に日付順で並べる(確定・未確定は問わない)
  2. 各案件で、代わりがきかないものに丸をつける(会場・キーマン・特殊機材)
  3. 丸をつけたもののうち、まだ声をかけていないものに星をつける
  4. 星がついたものについて、上のメール文例をコピーして日程・規模・確定時期を埋めて送る
  5. ついでに、いつもの3社に「いつまでに声をかけると助かりますか」と1行だけ聞いておく

全部やらなくて大丈夫です。1と2だけでも、今どこが危ないかは見えます。

チェックリスト

押さえる前に

押さえるときに

押さえたあとに

押さえられなかったとき

秋の朝のオフィスで、案件表に印をつけ終えて電話の受話器を置き、窓の光のほうを見て少しほっとした表情のイベント制作ディレクター

最後に

繁忙期の手配は、うまくいっても誰も褒めてくれません。当日、音が普通に出て、照明が普通に点いて、椅子が300脚並んでいる。それが当たり前として進んでいきます。

でも、その「当たり前」は、誰かが2か月前の夜に、まだ決まってもいない案件のために電話をかけたから成立しています。決裁も降りていない、金額も決まっていない、それでも先に頭を下げて日程を押さえた人がいる。それがあなたの仕事です。

押さえられなかった日があっても、それは段取りの失敗ではありません。同じ日に、同じものを必要としている人が他にもいたというだけのことです。そのときは、この記事の5段のリカバリを上から試せば、たいてい形になります。当日、お客さんは「LEDじゃなくてプロジェクターだった」ことに気づきません。気づいているのは、あなただけです。

いま、埋まっている返事を見て次の手を考えているなら——それは、まだ諦めていないということです。 まずは紙1枚に、秋の案件を並べるところから始めてみましょう。

よければ、こちらも

繁忙期の押さえは、会場・発注・スケジュールとひと続きです。前後とあわせて見ると、抜けが減ります。

関連用語


本記事は一般的な実務ノウハウの整理です。リードタイム(何日前に押さえるか)や仮押さえの慣行は、地域・会場・取引先の規模・案件の種類によって異なります。会場の仮押さえ期間や解除条件は施設ごとに定められているため、必ず各会場の規定をご確認ください。機材・人員の手配条件、キャンセル料の発生時期については、各社の取引条件・契約内容に従ってください。