
イベントの競合リサーチ|類似イベントを比べて差別化を見つける手順
オリエンの最後に、クライアントさんがひと言。「去年も似たようなイベントが近くでいくつかあったので、今回は他とは違う感じでお願いしたいんです」。持ち帰って検索してみると、似たようなイベントが次から次へと出てくる。企画書の「差別化ポイント」の欄を前に、カーソルだけが点滅している——。
「差別化」という言葉は、言われると急に重たくなります。何か新しいこと、誰もやっていないことを思いつかなければいけない気がしてくる。でも、現場で通る差別化の多くは、ひらめきではなく比べた結果として見えてくるものです。似たイベントを同じ物差しで並べてみると、「どこも同じことをしているところ」と「どこも手が回っていないところ」が、意外なほどはっきり見えてきます。
この記事では、類似イベントのリサーチを「集める・並べる・見つける」の3ステップに分けて、企画書に根拠つきで差別化を書けるところまで、一緒に進めていきます。
結論:イベントの差別化は「誰もやっていないことを探す」ではなく、「同じ来場者に向けたイベントを同じ物差しで並べて、空いているところを見つける」ことです。押さえるのは3つ——(1)集める:類似イベントは5本前後に絞る(多すぎると比べられない)、(2)並べる:「誰向けか・来る理由・目玉の体験・時間と場所・帰ったあとに残るもの」の5つの物差しで1枚の表にする、(3)見つける:表の空いているマスと、どこもやっているのに来場者の不満が出ているところから、オリエンの目的につながるものを1〜2個選ぶ。まずは類似イベントを3本、名前だけ書き出すところから始めてみましょう。
※リサーチは、各イベントの公式サイト・告知・主催者の公表情報・ご自身の来場体験など、公開されている情報の範囲で行うことを前提にしています。他社の資料や写真を企画書に転載せず、自分の言葉で要約してください。
何が起きているか——「差別化」が迷子になる4つの場面
差別化を考えるときに手が止まるのは、だいたい次のような場面です。
- 目玉企画の足し算になる:「あっちはステージがあるから、うちはステージ+キッチンカー+ワークショップで」と、量で勝とうとして予算がふくらむ
- 調べすぎて終わらない:類似イベントを20本、30本と集めているうちに締切が近づき、比べる時間がなくなる
- 他社の「できていないところ」探しになる:比べているうちに粗探しの目線になり、企画書が「他は〇〇がダメ」という書き方になってしまう
- 結局、似たものになる:よくできたイベントを見すぎて、気づくとその型をなぞった企画になっている
どれも、リサーチの「やり方」が決まっていないことから起きます。逆に言えば、集める数と、比べる物差しを先に決めてしまえば、リサーチは半日〜1日で終わる作業になります。
類似イベントのリサーチを3ステップで進める
ここからは、実際の手順です。「集める→並べる→見つける」の順番で進めます。

ステップ1:集める——類似イベントは5本前後に絞る
最初に決めるのは、どの範囲を「類似」と呼ぶかです。おすすめは、次の3つの層から合わせて5本前後を選ぶやり方です。
- 同じ業界・同じ主催者タイプのイベント:クライアントさんの同業他社が開いているもの。オリエンで名前が挙がったものがあれば、まずそれを入れます。
- 同じテーマのイベント:主催者の業界は違っても、テーマが同じもの(たとえば「親子で体験」「地域の食」など)。
- 同じ来場者を取り合うイベント:テーマは違っても、同じ時期・同じエリアで、同じ人たちの週末を取り合うもの。来場者から見れば、これがいちばん身近な「比べる相手」です。
調べる先は、公開されている情報で十分です。
- 公式サイト・告知ページ・プレスリリース
- 主催者が公表している開催報告(来場者数などは「主催者発表」として扱う)
- 公式SNSの投稿と、来場者が自分で発信している感想
- 業界誌・地域メディアの記事
- 日程と条件が合えば、来場者として自分で行ってみる(撮影・録音は、そのイベントのルールに従う)
5本を超えそうになったら、「来場者がいちばん重なりそうなもの」から残します。全部を調べきることより、比べられる数に絞ることのほうが、あとで効いてきます。
ステップ2:並べる——5つの物差しで1枚の表にする
集めたイベントを、同じ物差しで横に並べます。物差しは、次の5つで足ります。
| 物差し | 見るところ |
|---|---|
| 誰向けか | 想定している来場者(年齢・立場・誰と来るか) |
| 来る理由 | 来場者が「行こう」と思う一番の理由(学べる・遊べる・買える・会える など) |
| 目玉の体験 | 当日いちばん力を入れているコンテンツ |
| 時間と場所 | 開催時期・曜日・時間帯・会場の種類とアクセス |
| 帰ったあとに残るもの | 持ち帰るもの、次につながる仕組み(相談予約・会員登録・お土産 など) |
ポイントは、クライアントさんのイベント(または今回の企画案)も同じ表の1列に入れることです。他社だけを並べると「よそのイベントの感想」で終わりますが、自分たちの列を並べると、「どこで重なっていて、どこが違うのか」が一目で見えます。
マスが埋まらないところは、無理に推測で埋めずに「不明」と書いておきます。「不明」が多い物差しは、どこも外に向けて語っていないところ、という手がかりにもなります。
ステップ3:見つける——空いているマスと、不満が出ているところ
表ができたら、差別化の候補を探します。見るのは2か所です。
- 空いているマス:どのイベントも手をつけていない物差し。たとえば「帰ったあとに残るもの」がどこも「パンフレット」止まりなら、そこは空いています。
- どこもやっているのに、不満が出ているところ:来場者の感想に「待ち時間が長い」「子どもは楽しそうだったけど親は立ちっぱなし」といった声が繰り返し出ていたら、そこは同じことを、もっと丁寧にやる余地があります。
候補がいくつか出たら、最後にオリエンで聞いたクライアントさんの目的と照らし合わせて、つながるものを1〜2個に絞ります。目的につながらない差別化は、どれだけ珍しくても、企画書の中で浮いてしまいます。
差別化は、たくさん並べるより、1つを根拠つきで語れるほうが強いです。「この表のこのマスが空いていて、それはクライアントさんの目的にこうつながる」と1文で言えれば、それで十分です。
具体例:住宅メーカーの週末ファミリーイベントで比べてみる
たとえば、ある住宅メーカーさんから「住宅展示場で、秋の週末に家族向けイベントをやりたい。来場者に、家づくりの相談まで進んでほしい」というオリエンを受けたとします(以下はジャンル単位で組み立てた説明のための例です)。
類似イベントを、3つの層から5本集めて並べてみました。
| 物差し | 他社展示場の縁日型 | 商業施設の体験ワークショップ | 自治体の防災フェア | 他社展示場のキャラクターショー | 地域のクラフトマルシェ |
|---|---|---|---|---|---|
| 誰向けか | 未就学児の親子 | 小学生の親子 | 地域の家族全般 | 未就学児の親子 | 大人・夫婦 |
| 来る理由 | 遊べる | 作れる | 学べる | 会える | 買える |
| 目玉の体験 | 輪投げ・ヨーヨー釣り | 木工・工作 | 起震車・煙体験 | ショーと撮影会 | 手作り品の販売 |
| 時間と場所 | 土日・展示場 | 土日・商業施設 | 日曜・公園 | 土日・展示場 | 日曜・広場 |
| 帰ったあとに残るもの | 景品 | 作った作品 | 防災グッズ | 写真 | 買ったもの |
並べてみると、見えてきたことが2つありました。
- 「帰ったあとに残るもの」が、どこもモノで終わっている:家づくりの相談につながる「次の一歩」を用意しているところは見当たりませんでした。
- 来場者の感想に、似た声が繰り返し出ている:展示場型のイベントでは「子どもは楽しそうだったけど、親は立ちっぱなしで、ゆっくり話を聞く余裕がなかった」という趣旨の投稿がいくつか見られました。
ここから、差別化の候補を「子どもが木工体験をしている30分のあいだ、親は見える席に座って、スタッフと家の話ができる時間設計」にまとめました。目玉の体験を増やしたのではありません。どこもやっている「親子で遊べる」を、親の側の時間まで丁寧に設計しただけです。それが、クライアントさんの「相談まで進んでほしい」という目的に、まっすぐつながっています。
企画書には、この比較表をそのまま載せるのではなく、自分の言葉で要約した1枚にして、「なぜこの企画なのか」の根拠として使います。他社のイベント名は、必要がなければ伏せて「展示場型A」「商業施設型B」のように書くほうが、クライアントさんも社内で共有しやすくなります。
影響:根拠のある差別化は、企画書の外でも効いてくる
比べた結果としての差別化には、企画が通りやすくなる以上の効き目があります。
- クライアントさんが社内で説明しやすくなる:担当者さんが上司に「なぜこの企画なのか」を聞かれたとき、比較表という根拠があると答えやすくなります。
- コンペで「なぜ」に答えられる:アイデアの珍しさではなく、「来場者のこの困りごとに応える」という筋で話せるので、質疑で揺らぎにくくなります。
- 予算の使いどころがぶれない:差別化のポイントが決まっていると、削るときにも「ここだけは残す」が明確になります。
- 振り返りの物差しになる:本番後、「この差別化は来場者に届いたか」を、アンケートや相談件数で確かめられます。
調べた時間は、企画書の1ページのためだけではなく、案件の最初から最後までの判断を支える土台になります。
明日やること(まず15分でできる一手)
一度に全部やらなくて大丈夫です。次の3つから試してみてください。
- 類似イベントを3本、名前だけ書き出す:同業・同テーマ・同じ来場者を取り合うもの、の3つの層から1本ずつ。調べるのはそのあとで十分です。
- 5つの物差しの表を、空のまま作っておく:「誰向けか・来る理由・目玉の体験・時間と場所・帰ったあとに残るもの」。次の案件でも使い回せるテンプレートになります。
- オリエンメモから「目的」を1行で抜き出す:差別化の候補を最後に照らし合わせるための物差しです。ここが1行で書ければ、選ぶときに迷いません。
競合・類似イベントリサーチのチェックリスト
リサーチを企画書に落とす前に、上から確認してみてください。
集める
- 類似イベントを5本前後に絞ったか(多すぎて比べられなくなっていないか)
- 同業・同テーマ・同じ来場者を取り合うイベントの3つの層から選んだか
- オリエンで名前が挙がったイベントを入れたか
- 来場者数などの数字は「主催者発表」など出どころを書き添えたか
並べる
- 全イベントを同じ5つの物差しで並べたか
- 自分たちの企画(またはクライアントさんの過去のイベント)も同じ表に1列入れたか
- わからないマスを推測で埋めず、「不明」と書いたか
見つける
- 空いているマスを探したか
- どこもやっているのに不満が出ているところを、来場者の声から探したか
- 差別化の候補を、オリエンの目的と照らし合わせて1〜2個に絞ったか
- 差別化を「〇〇が空いていて、目的に〇〇とつながる」と1文で言えるか
企画書に載せるとき
- 他社の資料・写真・文章を転載せず、自分の言葉で要約したか
- 他社イベントを悪く言う書き方になっていないか
- 必要に応じて他社のイベント名を伏せ、ジャンル名で書いたか
差別化は、誰も思いつかない一手を探す勝負ではありません。同じ来場者に向けて開かれたイベントを、同じ物差しで静かに並べてみる。それだけで、「ここなら、うちが丁寧にやれる」という場所は、たいてい見つかります。カーソルが点滅していたあの欄にも、きっと根拠のある1文が書けるはずです。次の企画では、類似イベントを3本、名前だけ書き出すところから始めてみましょう。

よければ、こちらも
競合リサーチは、オリエンの聞き取り・企画書・来場者体験の設計とつながっています。前後をあわせて読むと、差別化がもう一段、企画の芯になります。
- 差別化の物差しになる「目的」を聞き漏らさないなら:イベントのオリエン確認項目リスト|聞き漏らしを防ぐ20の質問
- 見つけた差別化を企画書に載せるなら:イベント企画書の構成|提案が通る章立てと1枚サマリーの作り方
- 「来場者の不満」を体験の流れで捉えるなら:イベントの参加者体験マップの作り方|カスタマージャーニーで企画を詰める
- 差別化を数字で語るなら:イベントの企画をKPIに翻訳する手順|コンセプトを数字で語る
- 候補をもっと広げたいなら:イベント企画のアイデア出し|ブレストの回し方と発想の広げ方
- 開催時期で差をつけるなら:イベントの開催時期・曜日・時間帯の決め方|日程設計の手順
- 本番後に差別化が届いたか確かめるなら:イベントアンケートの作り方|設計から集計・満足度分析まで
- 企画の費用感をざっくり出すなら:イベント概算見積 計算機
本記事は、イベント企画における類似イベントのリサーチと差別化の考え方を整理した一般的な実務ノウハウです。記載した事例はジャンル単位で組み立てた説明のための例で、特定のイベントや主催者を評価するものではありません。リサーチは公開情報の範囲で行い、他社の資料・写真・文章の転載や、各イベントの撮影ルールに反する記録は行わないようご注意ください。