
イベント企画のアイデア出し|ブレストの回し方と発想の広げ方
コンペの提出まであと2週間。会議室に集まって、上司が口を開きます。「で、何かいい案ない?」。みんなが資料に目を落として、しばらく沈黙。ようやく出てきたのは、去年の案件とほとんど同じ案。結局、持ち帰りになって、夜にひとりで企画書と向き合う——そんな経験、ありませんか。
これは、チームにアイデアがないからではありません。「何かいい案」というお題が大きすぎて、誰も最初の一言を出しにくいだけのことが多いのです。アイデア出しは、ひらめきの勝負に見えて、実は段取りでかなり変わる仕事です。
この記事では、イベント企画のアイデア出し(ブレスト)を、センスの話ではなく進め方の話として、一緒に整理していきます。
結論:イベント企画のブレストは、「広げる」時間と「絞る」時間をはっきり分けると回りはじめます。進め方は、①お題を「答えやすい問い」に言い換える ②まず黙って1人で書き出す ③評価せずに数を出して広げる ④似た案を寄せる ⑤目的・実現性・らしさの3つの軸で絞る、の5段。60分あれば1回まわせます。落とした案も捨てずに「保留」として残しておくと、次の提案で効いてきます。
企画会議が沈黙するのには、理由がある
アイデアが出ない会議には、よく似た理由があります。
- お題が大きすぎる:「新商品発表会の企画」「何か盛り上がる案」は、考える入口が広すぎて、どこから手をつけていいか分からなくなります。
- 出した瞬間に評価される:「それ予算的に無理でしょ」「去年やったよね」。一度そう返されると、次の案は出しにくくなります。
- 声の大きい人の案に寄っていく:役職が上の人や、話すのが得意な人の案に、場の空気が引っぱられます。
- 材料がない:オリエンの内容や来場者のイメージが共有されていないまま、手ぶらで考えようとしている。
どれも、忙しい中で集まった会議ほど起きることです。誰かの発想力が足りないわけではありません。だから、「もっといい案を」と頑張るより、案が出やすい場の順番を先に作るほうが、ずっと近道です。
準備:お題を「答えやすい問い」に言い換える
ブレストの出来は、始まる前の10分でかなり決まります。いちばん効くのは、お題を小さな問いに言い換えておくことです。
| 大きなお題(出にくい) | 言い換えた問い(出やすい) |
|---|---|
| 新商品発表会の企画を考える | 来場した記者が、帰りの電車で「これは書きたい」と思う瞬間は何か? |
| 周年イベントを盛り上げたい | 社員が、家に帰って家族に話したくなる場面はどこか? |
| 展示会ブースに人を集めたい | 通路を歩く人が、3秒で足を止める理由は何か? |
| 地域のお祭りの新しい目玉 | 去年来た親子が「今年も行こう」と言いたくなるものは何か? |
問いの形にするコツは、「誰が」「どんな気持ちで」「何をしたくなるか」を入れることです。オリエンで聞いた目的(オリエンの確認項目リスト)や、コンセプトから降ろした成果(コンセプトをKPIに翻訳する手順)が、そのまま問いの材料になります。
あわせて、参加者には前日までに材料を1枚だけ共有しておきます。
- オリエンの要点(目的・来場者像・予算の幅・会場・日程)
- 決まっていること/まだ決まっていないこと
- 今日の問い(1〜2個まで)
「当日までに、案を1つだけ考えてきてください」と添えておくと、会議の最初の沈黙がぐっと短くなります。
60分のブレストの回し方
会議の時間配分は、たとえばこんな形です。
| 時間 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 5分 | 問いと材料の確認 | 「今日は広げる時間と絞る時間を分けます」と最初に伝える |
| 10分 | 黙って1人で書き出す | 付箋1枚に1案。上手に書かなくていい |
| 20分 | 順番に出して広げる | 評価しない。人の案に乗っかって足していく |
| 10分 | 似た案を寄せる | グループに短い名前をつける |
| 15分 | 3つの軸で絞る | 決めきれない案は「保留」に置く |
合計で60分です。時間が30分しかない日は、「書き出し5分・広げる10分・寄せる5分・絞る10分」に縮めても回せます。
最初の10分は、黙って1人で書く
いきなり口頭で出し合うと、最初に話した人の案に場が引っぱられます。最初は全員が黙って、付箋に1枚1案で書き出す時間をとります。
この時間があるだけで、話すのが苦手な若手や協力会社の方の案も、同じ重さで場に出てきます。「10分で5枚くらい」を目安にすると、手が止まりにくくなります。
オンラインで集まるときは、共有のホワイトボードツールや共有の表計算シートを使えば、同じように「1人で書いてから一斉に見せる」形にできます。
「広げる」20分は、評価しない
付箋を1人ずつ読み上げて、模造紙やボードに貼っていきます。この時間のルールは、ひとつだけです。
「いいね」も「無理だね」も言わない。人の案に乗っかって、足していく。
「それなら、こういうのは?」「その案の逆もありかも」と、案から案へつないでいくのが「広げる」時間です。実現できるかどうかは、あとの「絞る」時間でちゃんと見ます。先に決めておくと、進行役も「その話は、あとの時間でやりましょう」と、やわらかく戻せます。
発想が止まったときの4つの切り口
途中で手が止まったら、問いの角度を変えてみます。
- 来場者の1日を時間順にたどる:家を出る → 会場に着く → 受付 → 会場の中 → 休憩 → 帰り道。それぞれの場面で「うれしいこと」「困ること」を考えると、案が具体的になります。帰り道やお土産など、会場の外の時間は見落とされやすいところです(動線の考え方は来場者の動線・誘導の設計へ)。
- 五感で考える:見る・聞く・触れる・味わう・香る。展示が「見る」だけに寄っていたら、ほかの感覚から1つ足せないかを考えます。
- 条件を1つだけ変えてみる:「予算が半分だったら?」「屋外だったら?」「来場者が全員はじめての人だったら?」。条件を変えると、いまの案の本当の芯が見えてきます(会場ごとの考え方は会場タイプ別の企画の勘所へ)。
- ほかの業界から借りる:美術館の順路、飲食店の待ち時間の工夫、テーマパークの行列の見せ方。そのまま真似るのではなく、「なぜそれがうれしいのか」という仕組みだけを借りてきます。
生成AIに「この問いに対する案を20個」と頼んで、材料の叩き台にするのも一つの手です。ただし、出てきた案はチームで広げる前の素材として扱い、クライアントの名前や未発表の情報を入力してよいかは、自社とクライアントのルールに従ってください。
「寄せる」と「絞る」で、案を企画に近づける

似た案を「寄せる」
広げた付箋を、似たもの同士で近くに集めます。そして、かたまりごとに短い名前をつけます。「待ち時間を楽しくする案」「持ち帰れる体験の案」「社員が主役になる案」のように。
名前をつけると、ばらばらだった付箋が「方向」として見えるようになります。1枚ずつの案を比べるより、方向どうしを比べるほうが、あとで絞りやすくなります。
3つの軸で「絞る」
絞るときは、好き嫌いで選ばず、先に軸を決めてから見ていきます。おすすめは次の3つです。
| 軸 | 見ること | 確認の材料 |
|---|---|---|
| ① 目的に効くか | オリエンの目的・来場者像に、まっすぐつながっているか | オリエンの要点、KPI |
| ② 実現できるか | 予算・会場規定・安全・スケジュールの中で形にできそうか | 概算、会場規定、制作スケジュール |
| ③ らしさがあるか | このクライアント、このイベントでしかできない理由があるか | ブランド・過去の開催・参加者の声 |
方向ごとに、3つの軸で「◎・○・△」をつけていきます。ここで大事なのは、②の「実現できるか」は、この場で決めきらなくていいということです。火気や高所、飲食の提供、道路や公園の使用などが絡む案は、会場規定や所轄への確認が要ることがあります(会場規定の確認ポイント、申請・届出の早見表)。「確認すれば行けそう」なら△で残し、誰がいつまでに確認するかだけ決めておきます。
予算の中での優先順位のつけ方は、演出案を予算内に収める優先順位もあわせてどうぞ。
落とした案は「保留ボックス」へ
絞った結果、選ばれなかった案も、捨てずに保留ボックス(案件フォルダの1枚のシートで十分です)に残しておきます。
- 今回は予算で落ちたけれど、規模の大きい案件なら使える案
- 別のクライアントの目的なら、まっすぐ効きそうな案
- コンペで「B案」として添えられそうな案
次の案件のブレストで、最初の10分にこの保留ボックスを見るだけで、手ぶらで始めずに済みます。会議のたびにゼロから考えなくていい、というのは、チームにとって大きな安心になります。
絞った案を、企画書につなげる
ブレストで方向が決まったら、その日のうちに1枚にまとめておきます。書くことは3つだけです。
- 選んだ方向の名前と、ひとこと説明(「待ち時間を楽しくする案:受付の列そのものを展示にする」)
- 3つの軸での評価と、その理由(とくに「目的にどう効くか」)
- 確認が残っていること(誰が・いつまでに)
この1枚が、そのまま企画書の骨組みになります(企画書の構成と1枚サマリー)。コンペなら、提案までの段取りとあわせて見せると、クライアントにも進め方が伝わりやすくなります(コンペ提案のスケジュール提示)。
明日やること:3ステップ
次の企画会議の前に、この順で1つずつで大丈夫です。
- お題を1つ、問いに言い換える(「誰が・どんな気持ちで・何をしたくなるか」を入れて、1行で書くだけ。5分で終わります)
- 会議の案内に「最初の10分は1人で書く時間です」と1行足す(参加者が心の準備をしてきてくれます)
- 案件フォルダに「保留ボックス」のシートを1枚作る(空のままでかまいません。置き場所があるだけで、案が残るようになります)
とくに1つ目は、それだけで会議の最初の沈黙が変わります。
ブレスト準備〜まとめ チェックリスト
会議の前に
- オリエンの要点(目的・来場者像・予算の幅・会場・日程)を1枚にまとめた
- お題を「誰が・どんな気持ちで・何をしたくなるか」の問いに言い換えた
- 問いと材料を、参加者に前日までに共有した
- 付箋・ペン・模造紙(またはオンラインの共有ボード)を用意した
- 保留ボックスに前回までの案があれば、目を通しておいた
会議の中で
- 最初に「広げる時間と絞る時間を分ける」と伝えた
- 最初の10分は、全員が黙って1人で書き出した
- 広げる時間は、評価せずに案をつないでいった
- 手が止まったら、来場者の1日・五感・条件を変える・ほかの業界の切り口を試した
- 似た案を寄せて、かたまりに短い名前をつけた
- 目的・実現性・らしさの3つの軸で絞った
- 実現性の確認が残る案は、確認する人と期限を決めた
会議のあとで
- 選んだ方向・評価の理由・残った確認事項を1枚にまとめた
- 選ばなかった案を保留ボックスに残した
- まとめた1枚を、企画書づくりの担当と共有した
よければ、こちらも
アイデア出しは、オリエンから企画書、見積までつながっています。前後とあわせて見ると、会議の材料がそろいやすくなります。
- 考える前に聞くこと:オリエンの確認項目リスト
- 目的を言葉にする:コンセプトをKPIに翻訳する手順
- 企画の骨組み:企画書の構成と1枚サマリー
- 会場から考える:会場タイプ別の企画の勘所
- 予算の中で選ぶ:演出案を予算内に収める優先順位
- 会議を回す:イベント制作会議の進め方
- 提案の見せ方:コンペ提案のスケジュール提示
- 実現性の確認:会場規定の確認ポイント
- イベント制作ノートについて:編集部の考え方

会議で案が出ないと、「自分の発想が乏しいのかな」「リーダーとして場を回せていないのかな」と、つい自分を責めたくなります。でも、たいていの沈黙は、誰のせいでもなく、お題が大きすぎたか、広げる時間と絞る時間が混ざっていただけです。
問いを1つ小さくして、最初の10分を黙って書く時間にする。それだけで、チームの中に眠っていた案は、ちゃんと出てきます。ひとりで夜に抱え込んでいた企画を、みんなで考える仕事に戻していきましょう。
次の会議で、お題を1行だけ問いに変えてみてください。そこから、きっと話しやすくなります。