夜のオフィスで、イベント制作ディレクターが机いっぱいに並べた付箋を見つめながら、ひとつの付箋を手に取って考え込んでいる

イベントのネーミング・タグラインの決め方|候補出しから絞り込みまで

企画書のほかのページは、もうほとんど埋まっている。会場も、目玉の体験も、タイムテーブルの骨組みも。なのに表紙のイベント名だけが「秋のファミリーイベント(仮)」のまま。いくつか書いてはみたものの、どれもどこかで見たような名前に思えて、消しては書き直している——。

ネーミングは、企画のなかでいちばん「センス」が問われる仕事に見えます。でも現場で使われ続ける名前の多くは、ひらめきの一発ではなく、材料をそろえて、数を出して、物差しで絞った結果として残ったものです。手順があれば、締切の前夜にひとりで悩む時間はぐっと短くなります。

この記事では、イベントのネーミングとタグラインを「集める・広げる・絞る・決める」の4ステップで決めていく進め方を、一緒に整理していきます。

結論:イベントのネーミングは、センス勝負ではなく手順で決められます。押さえるのは4つ——(1)集める:オリエンの目的・来場者・当日の体験から「この企画を説明する言葉」を拾う、(2)広げる:切り口を変えて候補を30案ほど出す(この段階では良し悪しを判断しない)、(3)絞る:「呼びやすいか・中身が伝わるか・検索やSNSで見つけてもらえるか・ほかと紛らわしくないか・クライアントさんが口にしたくなるか」の5つの物差しで3案まで減らす、(4)決める:名前とタグラインをセットにして、推奨の1案と理由を添えて出す。まずはオリエンメモから、気になる言葉を10個書き出すところから始めてみましょう。

※ほかのイベント・商品・サービスとの紛らわしさの確認方法は、本文の「絞る」で触れています。商標の出願・登録が必要かどうかの最終判断は、クライアントさんの法務担当や弁理士などの専門家にご確認ください。

何が起きているか——ネーミングで手が止まる4つの場面

イベント名を考えるときに迷いやすいのは、だいたい次のような場面です。

どれも、ネーミングを「名前ひとつを思いつく作業」と捉えていることから起きます。実際には、名前とタグラインで役割を分け、候補を出す段階と選ぶ段階を分けるだけで、ずいぶん進めやすくなります。

名前とタグラインは、役割が違う

最初にここをそろえておくと、迷いが減ります。

名前(ネーミング)タグライン
役割呼ばれるもの。人が口にし、検索し、覚えるための言葉来る理由を一行で伝えるもの。名前だけでは伝わらない中身を補う
長さの目安口に出して一息で言える長さ読んで一息で分かる一文
使われる場所告知タイトル・看板・SNSのハッシュタグ・会話チラシやWebのキャッチ、名前のすぐ下
大事にすること呼びやすさ・覚えやすさ・紛らわしくないこと誰に向けて、何が起きるのかが伝わること

名前で全部を言わなくていい。名前は覚えてもらう係、タグラインは中身を伝える係と分けて考えると、名前を短く、覚えやすくすることに集中できます。

ネーミングとタグラインを4ステップで決める

ここからは、実際の手順です。「集める→広げる→絞る→決める」の順で進めます。

ネーミングの4ステップを示した図。左から、資料から言葉を拾って付箋に集める場面、ホワイトボードいっぱいに付箋を貼って広げる場面、付箋を3枚だけ残して選んでいる場面、1枚の付箋を企画書の表紙に貼って決めている場面
言葉を「集める」、候補を「広げる」、物差しで「絞る」、理由を添えて「決める」。出す段階と選ぶ段階を分けるのがコツ。

ステップ1:集める——オリエンから「説明する言葉」を拾う

いきなり名前を考え始めるのではなく、まず材料になる言葉を集めます。拾う先は、次の4か所で足ります。

  1. 目的:クライアントさんがこのイベントで実現したいこと(例:地域の人に、この商店街を「週末に寄る場所」として思い出してほしい)
  2. 来場者:誰が、誰と来るのか(例:小さな子どものいる家族、近所に住む三世代)
  3. 当日の体験:来場者がその場ですること、感じること(例:食べ歩く、作る、知り合いに会う、のんびり座る)
  4. 場所と季節:会場の特徴や、開催時期ならではの言葉(例:路地、軒先、秋、実り、夕暮れ)

オリエンメモ・企画書の下書き・クライアントさんが打ち合わせで何度も口にしていた言葉に、印をつけていくイメージです。クライアントさんがよく使う言葉は、そのまま大事な材料になります。社内で呼ばれ慣れた言葉が入っている名前は、決まったあとも使われやすいからです。

ステップ2:広げる——切り口を変えて30案ほど出す

材料がそろったら、候補を広げます。このステップでは、良し悪しを判断しないのがいちばんのコツです。出しながら選ぶと、数が出ません。

切り口を変えると、同じ材料からでも違う候補が出てきます。

一人で30案が難しければ、チームで15分だけ集まって、付箋に書いて出し合うのもおすすめです。「これはないかな」と思う案も、いったん全部出しておきます。ボツ案の一部が、組み合わせると化けることがよくあります。

ステップ3:絞る——5つの物差しで3案まで減らす

候補が出そろったら、ここで初めて選びます。物差しは、次の5つです。

物差し確かめ方
呼びやすいか声に出して読んでみる。読み方に迷わないか、一息で言えるか
中身が伝わるかタグラインとセットにしたとき、何のイベントか伝わるか
見つけてもらえるか名前で検索したとき、別のものばかりが出てこないか。ハッシュタグにしたとき長すぎないか
ほかと紛らわしくないか近い時期・地域・業界に、似た名前のイベントや商品・サービスがないか
クライアントさんが口にしたくなるか担当者さんが社内で、上司や同僚の前でそのまま言えるか

なかでも「ほかと紛らわしくないか」は、告知の直前に気づくと作り直しになるので、3案に絞る前に確かめておくと安心です。

ここで似た名前が見つかっても、すぐに諦める必要はありません。気になる点があれば、候補のまま「こういう似た名前があります」とクライアントさんに共有し、商標の扱いが必要そうなら、クライアントさんの法務担当や専門家に確認してもらう流れにしておきます。制作側だけで判断を抱え込まなくて大丈夫です。

ステップ4:決める——名前とタグラインをセットで出す

3案に絞れたら、それぞれにタグラインを1本ずつつけます。名前だけを並べるより、「この名前で、こう伝える」がセットになっているほうが、クライアントさんは選びやすくなります。

提案するときは、次の形がおすすめです。

最後に、名前の表記ルール(ひらがな・漢字の別、英字の大文字小文字、記号の有無)を1行で決めておくと、告知物ごとに表記が揺れるのを防げます。

具体例:商店街の秋のファミリーイベントで決めてみる

たとえば、ある商店街の振興組合さんから「秋の週末に、家族連れが商店街を歩いて回るイベントをやりたい。終わったあとも『週末に寄る場所』として覚えてもらいたい」というオリエンを受けたとします(以下は説明のために組み立てた例です)。

集める:オリエンメモから拾った言葉は、「週末」「寄り道」「家族」「食べ歩き」「軒先」「顔なじみ」「秋」「実り」など。担当者さんが打ち合わせで何度も「寄り道」と言っていたのが印象に残りました。

広げる:チームで15分、付箋を出し合って32案。体験の動詞から「よりみち」、場所から「軒先」、季節から「秋」、形式の言い換えから「市」「マルシェ」など。

絞る:5つの物差しで見ていきます。英字を使った案は響きはよかったものの、声に出すと読み方が人によって分かれたので外しました。「〇〇商店街 秋祭り」は中身は伝わるものの、検索すると毎年のほかの地域のお祭りに埋もれてしまいそうでした。残ったのは次の3案です。

候補タグライン
(推奨)よりみち軒先市歩いて、つまんで、顔なじみになる。家族で回る秋の商店街。
秋の商店街あるきお店をめぐって、週末の楽しみをひとつ増やそう。
のきさきマルシェいつもの商店街に、秋の市が立つ2日間。

決める:推奨の理由は「担当者さんが何度も口にしていた『寄り道』が名前に入っていて、終わったあとの『週末に寄る場所』という目的にそのままつながる。声に出して一息で呼べる」。商標とWebの検索結果は、3案ともあわせて資料に添えました。

名前は「イベントの説明」ではなく、「来場者が帰り道に、家族と呼び合える言葉」になっているか。そこを最後にもう一度、声に出して確かめます。

影響:手順で決めた名前は、決めたあとに効いてくる

手順を踏んで決めた名前には、提案が通りやすくなる以上の効き目があります。

ネーミングは表紙の一行ですが、決まった瞬間から、告知・看板・SNS・当日の呼びかけまで、案件のあちこちで働き続けます。

明日やること(まず15分でできる一手)

一度に全部やらなくて大丈夫です。次の3つから試してみてください。

  1. オリエンメモから、気になる言葉を10個書き出す:目的・来場者・体験・場所と季節の4か所から。クライアントさんがよく使う言葉には印をつけておきます。
  2. 名前とタグラインの役割を、チームでそろえる:「名前は呼ばれる係、タグラインは中身を伝える係」と一言共有するだけで、候補出しが進めやすくなります。
  3. 今ある候補を、声に出して読んでみる:読み方に迷う、一息で言えない——そう感じた候補は、それだけで絞り込みの手がかりになります。

イベントのネーミング・タグライン決定チェックリスト

提案に出す前に、上から確認してみてください。

集める

広げる

絞る

決める

ネーミングに、生まれつきのセンスは要りません。オリエンの言葉を集めて、数を出して、物差しで静かに絞る。そうやって残った名前には、ちゃんと理由があります。理由のある名前は、クライアントさんが自分の言葉で社内に持ち帰れる名前です。「(仮)」のままだったあの表紙にも、きっと胸を張って出せる名前が入ります。まずはオリエンメモから、気になる言葉を10個書き出すところから始めてみましょう。

秋の晴れた商店街で、のぼりと装飾が飾られた通りを家族連れが笑顔で歩き、その様子を少し離れた場所からイベント制作ディレクターがうれしそうに見守っている
理由のある名前は、来場者が呼び合う言葉になる。

よければ、こちらも

ネーミングは、オリエン・企画書・告知物の制作とつながっています。前後をあわせて読むと、名前が企画の芯としてもう一段働きます。

関連用語


本記事は、イベントのネーミングとタグラインの決め方を整理した一般的な実務ノウハウです。記載した事例は説明のために組み立てた例で、特定のイベントや団体を指すものではありません。商標の出願・登録の要否や、既存の商標との関係についての最終判断は、クライアントさんの法務担当や弁理士などの専門家にご確認ください。